多系統萎縮症とは?-わかりやすく解説
多系統萎縮症はどんな病気ですか?
脳の中にゴミのようなものがたまって、神経の老化が急激に進む病気です。お酒に酔ったような症状が出ます。自律神経の異常がでるので、立ち眩みやオシッコの状態を制御できなくなります。急に呼吸が止まることもあります。現状は治すためのお薬はなく、経過を観察したり、出ている症状を緩和したりするお薬が主体となっています。ただし、患者様が同じ速度で悪化するわけではなく、病状の進行速度に大きな個人差があります。
脳にたまるゴミ
神経間で連絡を取る時に使われるαシヌクレインというタンパク質が変性して脳にたまります。変性したαシヌクレインは活性酸素を排出して毒性を発揮し、脳の神経が急激に老化していきます。
多系統萎縮症の初期症状
おねしょをすることがあります。初めは月に一回でも、頻繁にするようになります。その後は、オシッコが出なくなることもあります。ご飯を食べると元気がなくなったり眠くなったりします。特に炭水化物を多く食べると手足の力が抜けて歩くことができなくなることが多いです。その他、眠ってからしばらくたって、叫んだり、手足を振り回したり、眠ったまま歩きだすこともあります。これらは、自律神経障害や脳にαシヌクレインがたまることでおこります。
多系統萎縮症になりやすい人
以前から、多系統萎縮症にはなりやすい体質があることが想定されていました。なりやすい体質にストレス等の外的な要因が加わって発症すると考えられています。コエンザイムQ10という老化を防ぐ物質を体内で合成する遺伝子に異変が多いことがわかっています。
進行を防ぐコツ
発症からおおむね5年で車いすになると発表されていますが、車いすになる患者様は50パーセントで進行に大きな差が出ます。進行が遅い患者様はいろいろな運動に取り組んでいる方が多いです。カラダのインナーマッスルを刺激した直後の運動やカラオケが効果的です。筋力トレーニングをするよりも、バランスをとる練習が大切です。
注意が必要なこと
○症状が急激に進行する前に、手足の温度や体幹の温度が低下することが多いです。
※定期的にサーモブラフィで体温の状態を確認すると効果的です。
○発症から2.5年以内に自律神経障害が出ると、寝たきりが長くなることや突然死する可能性が高まります。
○頻尿や失禁で前立腺の手術をすると、急に尿閉になることが多いです。
○脊柱管狭窄症の手術をすると、一時的によくなり、その後、急激に悪化することが多いです。
○甲状腺に異常があると、症状が急激に進行することが多いです。
○全身麻酔の手術をすると、その後、急激に症状が進行することが多いです。
○骨折をすると、その後の症状が急激に進むことが多いです。
住宅環境を整える
転倒して骨折をすると多系統萎縮症の進行が早まります。家具の配置を変えたり、段差を解消したり、手すりをつけたりするようにしましょう。動きやすくなるので、進行を大幅に遅らせることができます。
社会活動を維持する
引き込もらないように、できる限り社会に出るようにしましょう。活動的に外にでる方のほうが、病状の進行が遅い感じがします。
各種福祉制度を活用する
特定疾患医療受給者証、身体障害者手帳、障害年金、介護保険を利用して活動的に生活をしましょう。多系統萎縮症では、介護保険を40歳から使えるようになります。
多系統萎縮症の治療
小脳性運動失調には、ヒルトンⓇ、セレジストⓇが使われます。パーキンソニズムには、抗パーキンソン薬が使われます。起立性低血圧には、血圧を調整する薬を組み合わせます。
※血圧を調整するお薬は、横になっている血圧を基準に処方されるので、起立性低血圧が強いのに降圧剤が出ているケースがあります。症状の悪化を感じたらすぐに担当医の先生に相談しましょう。
◇◇◇◇◇もっと詳しく◇◇◇◇◇
多系統萎縮症について
多系統萎縮症(MSA)は、以前にはオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群といった異なった病気と考えられていました。これらの病気は脳にたまる「変性したαシヌクレイン」が原因だと言うことがわかり、ひとまとめにして多系統萎縮症と言う病名で呼ばれるようになりました。
現在、国際基準では、シャイ・ドレーガー症候群は多系統萎縮症に共通して起こる症状なので診断名から外され、初発がお酒に酔ったような症状で始まる多系統萎縮症の小脳萎縮タイプ(MSA-S)、初発がパーキンソン病のような症状で始まる多系統萎縮症の黒質変性タイプ(MSA-P)に分類されています。
多系統萎縮症は、脳を構成する組織の中で、小脳系、線条体黒質系、自律神経系といった多くの神経系統が萎縮するので多彩な症状が出ます。病状の前半期では症状に対する治療を重視するので、治療の現場では以前のまま、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群の病名が使われることが多いです。
オリーブ橋小脳萎縮症
延髄にあって運動が失敗したときに違和感を覚える部分(オリーブ核)、延髄の上にあってオリーブ核の情報を小脳に伝える神経線維(橋)、オリーブ核の違和感を修正して大脳に伝える部分(小脳)の老化が急速に進むので、動作がスムーズにできなくなります。お酒に酔ったように呂律が回らない症状(構音障害)や千鳥足(小脳性運動失調)、思っている場所に手足を持って行けない(測定障害)が出ます。日本人に一番多い多系統萎縮症のタイプです。
線条体黒質変性症
中脳にあってドーパミンを放出する場所(黒質)、脳の中心で黒質からのドーパミンの刺激を受け取ってカラダの動きをスムーズに調整する部分(線条体)の老化が急速にすすむので、動作が鈍くなります。筋肉がこわばり、顔の表情がなくなり転びやすくなります。
線条体黒質変性症とパーキンソン病の違い
両方とも、黒質にごみのようなもの(αシヌクレイン)がたまって神経の老化がすすみます。黒質からドーパミンが放出されなくなるので同じような症状になります。ただし、パーキンソン病はドーパミンを受け取る部分(線条体)が正常なので、ドーパミン様のお薬(レボドパ製剤)で症状の進行を抑えることができます。線条体黒質変性症は、線条体も老化が進んで機能が低下するので徐々にドーパミン様のお薬が効かなくなり、病気の進行を抑えることができません。
線条体黒質変性症の初期とパーキンソン病は、症状から区別ができないことが多いのですが、パーキンソン病では、心臓に向かう交感神経にも変性がおこるので、心筋交感神経シンチグラフィーで区別ができることが多いです。
シャイ・ドレーガー症候群
カラダを戦闘モードにする神経(交感神経)と、平和モードにする神経(副交感神経)のバランスを保つことができなくなります。脳の中心と延髄にある交感神経と副交感神経の老化が急速に進むので、血圧、排尿、発汗、消化、睡眠等の調節ができなくなります。自律神経失調と違い、進行が止まることはありません。
最も深刻な症状は起立性低血圧で、歩行している状態で崩れるように転倒することがあります。また、夜間にトイレに行くときに気を失ったり、ご飯を食べている時に意識がなくなったりします。シャイ・ドレーガー症候群が始まると多系統萎縮症の進行速度が早まることが多いです。
多系統萎縮症の原因
神経の連絡に必要なαシヌクレインと言うたんぱく質が過剰に作られ、神経細胞や神経細胞を支える細胞(グリア細胞)の中で固まってしまうことが原因です。神経細胞やグリア細胞の中で凝集したαシヌクレインは、神経毒性を発揮して神経が徐々に死滅してしまいます。
αシヌクレインが固まってしまう原因は不明でしたが、最近の研究でαシヌクレインを凝縮させる因子(αシヌクレインシード)が特定されて、今後の多系統萎縮症の治療の発展に大きな期待が出ています。(パーキンソン病や認知症の原因タンパク質αシヌクレインシードが血液検査で検出可能に―Nature Medicine誌2023年5月29日付で公開/日本医療開発機構)
多系統萎縮症の症状
基本的な症状は、小脳性運動失調、パーキンソニズム、自律神経障害の三つです。
小脳性運動失調ではふらつきが主体になります。ボタンのかけ締めや字が下手になるなど、細かい動きの微調整もできなくなります。言葉の呂律が回りにくくなるので電話での会話が伝えにくくなったりします。
パーキンソニズムは、パーキンソン病に似ている症状を相称して言います。動きが緩慢になったり、手が震えたり、前かがみになったりするのですが、首の前の筋肉がジストニアで緊張すると、脳への血流が低下して多系統萎縮症の進行が早まることが多いです。
自律神経障害にはいろいろな症状がありますが、大きな障害となるのが、起立性低血圧と神経因性膀胱です。心因性膀胱ではおねしょを繰り返すことがあります。最悪のケースでは尿閉が起こります。起立性低血圧は意識を失うことも多いです。
多系統萎縮症と間違う病気
お酒に酔ったような感じになる病気、手足が震えたり、カラダが固まったりする病気、立ち眩みが出る病気で間違いやすい病気があります。パーキンソン病、レビー小体型認知症、進行性核上麻痺で、鑑別を付けるために診断に時間がかかるケースも多いです。
残念なことに、多系統萎縮症には、病気の進行を完全に止めるといった根本的な治療は、現時点では知られていません。しかしながら、いろいろの治療を組み合わせることで、症状の進行を遅らせたり、療養生活の質を上げたりすることが可能なので治療を早めにしていきましょう。
多系統萎縮症の専門外来
お医者様とは違った角度から検査をして治療に活かしています。
研究がすすんで、多系統萎縮症はパーキンソン病と同じ種類の病気(αシヌクレインノパチー)だと言うことがわかってきました。以前からパーキンソン病の鍼治療は行われていたので、パーキンソン病の鍼治療とリハビリを組み合わせると多系統萎縮症の進行が緩やかになったり、症状が改善したりすることが多いです。初診では十分な時間を取って患者様の問診をするので、お困りのことがあったらご相談ください。
当院独自の検査
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カラダの傾きを検査する
オリーブ橋小脳萎縮症では、カラダの傾きが大きくなるほど症状が進みやすいので、カラダの傾きを検査します。傾く原因を作っている姿勢筋を確認しながら治療を進めます。
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自律神経の状態を検査する
多系統萎縮症では、症状が悪化する前に自律神経のバランスを崩すことが多いです。自律神経中枢の異常は体温に現れるので、体温から悪化の予兆を調べて治療を進めます。
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脳への血流を検査する
多系統萎縮症が進行する方は脳への血流が悪化していることが多いです。寝ている状態と起きている状態では血流が変化するので、日常生活で一番多い姿勢で脳への血流状態を調べて治療を進めます。
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当院について
森上鍼灸整骨院
院長 吉池 弘明
森上鍼灸治療では、西洋医学の代替医療として鍼灸治療に取り組んでいます。 顔面神経麻痺や突発性難聴の患者様には、臨床経験20年以上の鍼灸師がチームを組んで治療にあたります。
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