脊髄小脳変性症のふらつきに鍼灸は効く?|バランス改善のメカニズム

脊髄小脳変性症のふらつきには鍼灸が効く?バランスが改善されるメカニズムを詳しく解説します。

脊髄小脳変性症の患者さんやご家族とお話ししていると、一番多く耳にするのが「ふらつき」への不安です。 「外を歩くのが怖くなった」「家族に支えてもらわないと不安」という切実な悩みに対し、当院では病院での治療を大切にしながら、鍼灸で「今の体の機能を最大限に引き出す」お手伝いをしています。

「なぜ鍼でふらつきが楽になるの?」という疑問について、専門的な知見をもとに、大切なポイントを噛み砕いてお伝えします。

1. 脊髄小脳変性症で「ふらつき」が起こる理由

脊髄小脳変性症のふらつきは脳の予測機能が休んでいる状態

ふらつきの原因を正しく知ることは、過度な不安を整理する第一歩になります。

脳の「予測」が少しお休みしている状態

私たちの脳、特に小脳は、動く前に「これくらい動けばバランスが保てる」という予測を立ててくれます。これを「予測的制御」と言います。 脊髄小脳変性症になると、この予測機能がうまく働かなくなります。そのため、動いた後で「おっとっと」と修正する「後追いの動き」ばかりになり、結果として動きがギクシャクしてふらついてしまうのです。

首まわりの「がんばりすぎ」がブレーキに

体がふらつくと、無意識に「転びたくない!」という強い緊張が走ります。特に頭を支える首の後ろの筋肉(後頭下筋群など)がガチガチに固まってしまう方が多いです。 この首のこわばりが、実はバランス感覚をさらに鈍らせる原因になっていることも少なくありません。

2. 鍼灸がバランスを整える「3つの仕組み」

「なぜ鍼が効くのか」という理由を、医学的なメカニズムから紐解きます。

① 脳(小脳)へ血流を届ける

手足や首にある特定のツボを刺激すると、感覚神経を通じて脳内の血流が増えることが確認されています。血流が良くなることで、小脳が本来持っている「バランスを保とうとする働き」を影ながらバックアップします。

② 「体のセンサー」の誤差を修正する

耳の奥にあるバランスのセンサー(前庭系)は、首の筋肉と深く連動しています(前庭頸反射)。鍼で首の緊張を優しく解きほぐすと、脳に届く「体の傾き情報」の誤差がリセットされ、平衡感覚がスムーズに働きやすくなります。

③ 「立ちくらみ」をケアする

立ち上がった時にフラッとする症状(起立性低血圧)がある場合、鍼灸で自律神経系を整えることで血圧を安定させ、転倒のリスクを減らすサポートができます。

3. バランス改善に大切な「ツボ」のお話

バランス改善に大切なツボ

当院の施術において、特に重要視しているツボをご紹介します。

  • 百会(ひゃくえ)
    • 場所:頭のてっぺんです。
    • 効果:脳の血流を促し、自律神経の乱れを鎮める「司令塔」のようなツボです。
  • 天柱(てんちゅう)・風池(ふうち)
    • 場所:後頭部の生え際、首の付け根にあります。
    • 効果:首の奥の緊張を緩め、脳や内耳への血流をスムーズにして、ふらつきを和らげます。
  • 申脈(しんみゃく)
    • 場所:外くるぶしのすぐ下です。
    • 効果:足元の安定感を高め、左右のふらつきを抑えるために欠かせないツボです。

4. どれくらいで変わる?リハビリとの組み合わせ

鍼治療とリハビリで安定感を取り戻しSARAスコアの改善が見込める

「1回で魔法のように治る」というわけではありませんが、継続することで希望が見えてきます。

鍼を打った「直後」がリハビリのチャンス

体がガチガチに固まったままリハビリをしても、なかなか効果は出にくいものです。鍼灸で筋肉を緩め、血流を良くした**「直後」**にリハビリを行うのが最も効果的です。これにより、小脳が新しい動きを学習する力を引き出します。

続けることで安定感が増していく

週に1〜数回の施術を数ヶ月続けていくことで、国際的な指標(SARAスコア)が大きく改善し、数年分時計の針を戻したような安定感を取り戻すケースもあります。

まとめ

脊髄小脳変性症によるふらつきは、脳の予測機能と筋肉の緊張が絡み合って起こっています。鍼灸は、その絡まった糸を一本ずつ丁寧に解いていくような治療です。

当院では、エコーサーモグラフィモアレトポグラフィといった他覚的な検査を行い、「今、お体で何が起きているのか」を客観的に調べた上で、一人ひとりに最適な鍼治療を行っています。

「もう進行を待つしかない」と諦める前に、お体の持つ可能性を一緒に引き出してみませんか?


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • 『小脳と運動失調』:手首運動における予測的成分とフィードバック成分の分離
  • 『脊髄小脳変性症のリハビリテーション-新しい治療戦略からリハビリテーションまで』:SCDに対する集中リハの効果
  • 『神経内科2013 神経内科診療における鍼灸治療』:維持期脳血管障害などの症状に対する鍼治療、天柱ブロック
  • 『脊髄小脳変性症のリハビリテーション』:立位および歩行障害に対するリハアプローチの取り組み
  • 『鍼灸療法技術ガイドⅡ-1』:シャイ・ドレーガー症候群の起立性低血圧に対する鍼治療の症例
  • 『鍼灸療法ガイド2-1』:めまいの現代医学的な鍼灸治療、前庭頸反射
  • 『東洋医学はなぜ効くのかツボ・鍼灸・漢方薬・西洋医学で見る驚きのメカニズム』:ツボの位置(百会・風池)、申脈・百会の効果
  • 『鍼灸療法ガイド1』:脳血流に及ぼす作用

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