脊髄小脳変性症|標準治療と鍼灸の併用で進行を遅らせる戦略

脊髄小脳変性症の治療法|病院での標準治療と鍼灸の併用で進行を遅らせる戦略とは?詳しく解説します。

脊髄小脳変性症(SCD)と診断され、病院でセレジストやタルチレリンといったお薬の服用を続けている方の多くが、「薬だけで本当に大丈夫なのだろうか」「少しずつ進行している気がして不安だ」という思いを抱えていらっしゃいます。

実は、現在の神経内科における標準治療を「土台」にしながら、そこに鍼灸治療を「上乗せ」することで、症状の進行をより緩やかにし、日常生活の質(QOL)を大きく向上させられる可能性があります。

今回は、薬、リハビリ、そして鍼灸。これらをどのように組み合わせるのが最も効果的なのか、その「併用戦略」について詳しく解説します。


1. 標準治療(薬・リハビリ)の役割と、その限界を知る

まずは、病院で行われる治療の目的を正しく理解しましょう。

薬物療法(タルチレリン/セレジストなど)

これらのお薬は、脳内の神経伝達物質(アセチルコリンなど)の働きを活発にすることで、歩行のふらつきや呂律の回りにくさを改善し、進行を抑える目的で処方されます。非常に大切な「神経の代謝の底上げ」ですが、根本的に病気を治したり、進行を完全に止めたりすることは難しいのが現状です。

リハビリテーション

反復して体を動かすことで、残された神経回路を再構築する「脳の可塑性(運動学習)」を促します。 しかし、小脳機能が低下していると、健常者よりも疲れやすく、また、ふらつきをカバーしようとして全身の筋肉がガチガチに固まってしまうため、「リハビリをしたいけれど、体が思うように動かない」という壁にぶつかることが多々あります。


2. 鍼灸を「併用」する最大のメリット:相乗効果の仕組み

なぜ、標準治療に加えて「鍼灸」が必要なのでしょうか。そこには、薬やリハビリだけでは届かない部分を補う役割があるからです。

① リハビリの「ブレーキ」を外す

SCDの患者さんは、転倒への恐怖から、無意識に首の後ろや背中、足の筋肉を過剰に緊張させています。この「ガチガチの状態」はリハビリの効果を妨げるブレーキになります。 鍼灸は、この異常な緊張(痙縮)を直接的に緩め、筋肉の血流を改善します。筋肉がほぐれ、スムーズに動ける状態でリハビリを行うことで、正しいフォームでの運動学習が可能になり、リハビリの効果を最大限に引き出すことができるのです。

② 薬物療法をサポートし、進行を抑える

同じ神経の病気であるパーキンソン病の研究では、「お薬のみ」のグループよりも、「お薬と鍼灸を併用した」グループの方が、運動機能の悪化が有意に抑えられたというデータがあります。 多系統萎縮症などを含むSCDにおいても、薬物療法と鍼灸を組み合わせることで、薬の量に頼りすぎることなく、動ける体を長く維持できる可能性が高まります。


3. 当院が提案する「勝つための治療計画」

私たちは、以下の3つのサイクルを回すことで、進行に立ち向かう戦略を立てています。

  1. ベース(土台):病院での薬物療法を毎日継続し、神経の働きを内側から支える。
  2. サポート(準備):週に1〜数回の鍼灸治療で、過剰に固まった筋肉を緩め、脳や神経への血流を増加させて「動ける体」を準備する。
  3. アクション(実践):鍼灸直後の「ゴールデンタイム」に、歩行やバランスのリハビリを行う。

この「薬 × 鍼灸 × リハビリ」の相乗効果こそが、転倒を防ぎ、在宅での自立した生活を一日でも長く守るための鍵となります。


まとめ

脊髄小脳変性症の治療は、どれか一つを選べば良いというものではありません。標準治療を大切にしながら、鍼灸という強力なサポーターを加えることで、その効果は何倍にも膨らみます。

当院では、エコーサーモグラフィモアレトポグラフィといった検査を用いて、お体の状態を数値や画像で客観的に分析し、根拠に基づいた鍼治療を提供しています。

「今できることをすべてやりたい」という患者さんとご家族の想いに、私たちは全力で応えます。

脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • 『小脳と運動失調 小脳はなにをしているのか』 中山書店
  • 『脊髄小脳変性症のリハビリテーション-新しい治療戦略から緩和ケアまで』 (JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION) 医歯薬出版
  • 『脊髄小脳変性症マニュアル決定版!』 日本プランニングセンター
  • 『神経内科2013 神経内科診療における鍼灸治療』 科学評論社
  • 『図解 鍼灸療法技術ガイド I / II』 文光堂
  • 『脊髄小脳変性症の臨床』 南山堂

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